市民のみなさまへ

●子どもの食物アレルギーについて


食物アレルギーには、いくつかのタイプがあります。代表的なものは、①新生児期からミルクアレルギーにより血便が見られる新生児・乳児消化管アレルギー、②乳児期に多い食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎、③乳児期より成人まで見られるじんましんやアナフィラキシーなどの即時型反応、他に特殊なタイプとして、④学童期に多い食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FEIAn)、⑤果物を食べて口の中や喉に違和感を覚える口腔アレルギー症候群(OAS)などです。
食物アレルギーによる症状は皮膚症状(蕁麻疹、湿疹など)、粘膜症状(目の充血、くしゃみ、喉のイガイガ感など)、消化器症状(嘔吐、血便など)、呼吸器症状(声がれ、咳、喘鳴、呼吸困難など)、循環器症状(頻脈、血圧低下など)といったさまざまな部位に、さまざまな程度で出現します。重い症状としてアナフィラキシーがあります。アナフィラキシーは皮膚、呼吸器、消化器など複数の部位に症状が現れるもので、時には血圧低下や意識喪失を引き起こします。こうした生命をおびやかす危険な状態をアナフィラキシーショックと呼びます。
食物アレルギーを有するお子さんは乳児では約10%、幼児で約5%、学童で2~3%と考えられています。その症状は、皮膚症状が最も多く、呼吸器症状、粘膜症状と続きます。原因となる食物は、年齢によって異なりますが、全年齢では、卵が最多で、牛乳、小麦、ピーナッツ、魚卵、果実と続きます。
さて、上記に挙げたいくつかの臨床的分類の中で代表的なものにについて述べます。まず、③の即時型反応ですが、原因食物摂取後数分から1時間以内に症状が出現します。ですから、何が原因と疑われるかは推定されやすいと思われます。複数の食材を食べている場合が多いので、何回か出現しているときは、それぞれの場合の食材をチェックして、共通する食材を見つけ出します。検査として血液検査で血中特異的IgE抗体を調べます。またいろいろな抗原液を用いて皮膚テスト(プリックテスト)を行う場合もあります。検査が陽性か、または病歴から原因食物と考えて妥当と診断されれば、その食物を除去します。除去する場合の原則は『正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去』ですので、検査で多くの食物が陽性にでた場合、そのすべての食物を制限することはせず、専門の医師によって検査結果の見直し、そして必要に応じて負荷試験(原因かもしれない食物を少量ずつ摂取してもらって、症状の発現の有無を確認する検査)を行い、原因とされた食物だけを除去することが小児の発育のためにも大切です。食物の種類、年齢によっては、耐性獲得(成長に伴う消化管機能と免疫学的機能の成熟により、食物アレルギー症状を呈さなくなること)しますので、特に小さいお子さんでは半年から1年程度で、食べられそうかどうかをまた考えていただくことが大切だと思います。
次に②の食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎ですが、アトピー性皮膚炎は慢性の湿疹ですので、③の即時型とは病態が違います。原因となる食物を食べ続けることで湿疹が悪くなっていきます。即時型反応のようにすぐ目立った症状がでるわけではありません(同じアレルギー反応でも即時型反応とは異なるメカニズムが関与しているからです)。たしかに目の前の赤ちゃんに湿疹が続いていて痒がっていると、お母さん方は『何か食物が原因ではないか?』、『自分が食べているものが母乳にでてきて湿疹の原因になっているのではないか?』と、とても気になるところだと思います。ただし、最近の考え方(アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2009による)では、血液検査をする前に、スキンケア(皮膚の清潔と保湿)と薬物療法(ステロイド外用薬が中心)を行い、症状がよくならない場合に血液検査をすることが薦められています(乳児期早期はプリックテストの方が有用なことがあります)。そして陽性の場合は、疑われる食物の除去を1~2週間行い症状が改善したら、その食物が湿疹と関係していると考えられるので、除去をしていきましょう、そして耐性獲得をいずれ確認しましょう、ということになっています。また最近は湿疹のない子に比べて湿疹のある子の方が、将来食物アレルギーになる可能性が高くなるという報告もあります。ですから積極的に湿疹をよくするようにしてください。もちろんこの食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎のお子さんに即時型のアレルギー症状がでることも多いので、その場合は先ほどの即時型の対応が必要です。
食事制限をするときは、原則は部分除去でなく完全除去です。特に保育園や幼稚園では、例え『パン程度の使用ならよい』などのあいまいな指示だと、調理や管理が煩雑となるだけでなく、誤食事故の遠因にもなるので、完全除去が望ましい、とされています。
最後に除去の解除の仕方についてです。もし間違って食べてしまったときに何も症状がでなければその時から、そうでなくても除去開始後半年から1年たったら、制限を解除できるかどうかを考えていくべきでしょう。これはかかりつけの先生とよく相談してください。年齢や血液検査の推移から大丈夫そうだということであれば、少しずつ食べていただくことになると思います。特異的IgEがとても高い場合や過去に強いアナフィラキシー症状があった場合はアレルギー専門医のいる大きな病院で解除のための負荷試験をするかどうかを検討することになります。
除去食の原則は『正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去』ということをもう一度お伝えしてこの稿を終えたいと思います。

(笹本和広)